VOICE

230419

#02

「ポッドキャストとWeb1.0」feat…竹中直純
雑談のインタビューコンテンツ「VOICE」第二回ゲストは竹中直純さん。
文化と技術の両面でインターネットを支え続けてきた天才プログラマーは、”ポッドキャスト”の歴史といかに交わってきたのか?その黎明期から現在までを掘り下げたロングインタビューをお届けします。
※全編はポッドキャストで無料配信中。

Cast竹中直純/Naozumi Takenaka

InterviwerMechikuro

EditZATSUDAN INC.

Date2023.04.19

音声は「フューチャリスティックな体験」として扱われていた

──直純さんは、インターネットの黎明期からプログラマとして最前線で活躍されていますが、当時の環境において”音声”をどのように捉えていましたか?

直純まずは、規格に関する話からになりますが、ビデオのストリームに音声トラックを埋め込むために開発された『MP1』や『MP2』から始まり、それらよりも音が良く実用に耐える規格としてドイツのフラウンホーファーから『MP3』が出たのが91年だったと思います。
それから、ブラウザの対応やコンピューターの速度が追いついて、実用的に圧縮・再生ができたりするようになったのが97~98年ぐらいになります。

ちなみに、僕が坂本龍一さんのライブを手伝っていた95年頃というのは『MPEG2』という規格で320×240の解像度の画像をやっと送れるようになった時代なので、音声もステレオですらないような状況でした。その後の2〜3年でモデムの速度が上がることによりストリームの容量が増え、28.8kから56kとかになるわけですが、それでも56kだと「ステレオにできるかな~?」みたいな感じなので、マルチメディアのデータを家庭まで持ってこれた時代として捉えると、90年代後半というのはまだちょっと早い時期ですよね。

──直純さんが年初に配信したポッドキャスト『まずは耳からはじめよ』でも、坂本龍一さんが”インターネットに文化を持ち込んだ最初の存在である”という事実を通じて、当時の現象を振り返られていましたが、当時のインターネット環境でライブ配信するということが、いかに困難なチャレンジだったのかは想像に難くないですね。ちなみに文化的な観点からは”音声”をどのように捉えられていましたか?

直純コンピューターと音声に関しては、最初は”テレグラム”というか、電話を置き換える存在として、未来的な新しいコミュニケーションとして追求された感はあります。

当時の規格は『NeXT』というコンピューターに実装しやすいものから採用されたのですが、その環境で音声がどのように扱われていたかの例をあげると、まず『NeXT』を購入して、箱を開け、ケーブルをつなぎ、電源を入れてログインの設定をすると、スティーブ・ジョブズから「WELCOME TO THE NEXT WORLD」という、洒落た音声のメールが届くんです。
そのように、音声はフューチャリスティックな体験として扱われていましたね。

──ちなみに『NeXT』とは、『apple』創業者のスティーブ・ジョブスが、『apple』を追い出された後に創業したコンピュータメーカーという認識であってますか?

直純はい。『apple』から追い出されてやさぐれて、『Pixer』を救って、その後にMacに勝つメーカーを作りたいということで、1987年に創業して2年ほどで、MacOSの原型となる『NeXTSTEP』というOSをアヴィ(アヴァディス)テバニアンという人を中心に作り上げて世に出したんですね。

──『NeXT』に関しては、直純さんはどのような関わりがあったのですか?

直純記憶がだいぶ消えかけてるんですけども(笑)
日本で『NeXT』を扱っていたキヤノン販売の三田にあった研究所に呼ばれて「何かやりましょうよ」と誘われて、アプリケーションの日本語化や、OS周りのユーザビリティを上げるための手伝いをした覚えがあります。
日本語の取扱いをするにあたって、スティーブ・ジョブズさんに「アメリカのチームが雑なんで、何とかしてくれ」みたいな話を直談判しに行ったりとかしましたね(笑)
『NeXT WORLD EXPO』というエクスポジションの会場で、スティーブ・ジョブズさんがウロウロしていたので声をかけて「僕はキヤノンでお手伝いをしてるんだけど、ちょっと雑過ぎませんか?」って言ったら、「ああ。あの人が担当だから」みたいな感じで呼んでもらって担当とつないでもらいました。
直接話したのはその一回だけですけど。

──スティーブ・ジョブスというキャラクターを一人置くことによって、当時のインターネットやコンピューターが、社会の中でどのような立ち位置だったのか解りやすくなりますね。“音声“とインターネットを規格から辿ってみたのがここまでの話だとすると、その”音声”が、インターネット上でコンテンツになる可能性を感じられたのはいつ頃ですか?

直純アダム・カリーさんが”ポッドキャスト”という言葉を発明したのが2004年ごろですよね。
このステイトメントが出てから急にみんなが気づかされたって感じですよね。

──そのステイトメントを知った際に、コロンブスの卵的な感覚はありましたか?

直純ありましたね。当時はみんな音楽の方に夢中でしたからね。『NAPSTER』どうする?みたいな時代ですよ。

ポッドキャストは、
Web1.0的メディア

──その時代における直純さんの活動を深掘りさせていただきたいのですが、当時『デジオ宇宙』というポータルを運営されていましたよね。これはどういうものだったのでしょうか?

直純『デジオ宇宙』は2004年から2008年ぐらいまで存在したポータルサイトなのですが、ちなみに、サウナブームを作ったタナカカツキという人は知ってますか?
彼は当時からインフルエンサーだったので、「ポッドキャストやろうよ」みたいなノリで周りの人を巻き込んで何十人も始めさせたんですね。
でも、ICレコーダーさえあれば手軽に始められるのはいいのですが、いろいろなホストサービスに音声を載せることはできても、それでは各自のコンテンツがポツンとあるだけだという問題に気づきました。
インターネットを宇宙と例えるなら、それらは誰も知らない星なわけですね。それを太陽系みたいに集めて…銀河系みたい集めて…という風になぞらえると、このポータルは宇宙だなっていうことで『デジオ宇宙』と名付けました。

──それは、Spotifyやapple podcastをはじめとするプラットフォームが隆盛を極める現在でも、充分な体験価値があるアイデアに聞こえますね。

直純巨大な引力であるタナカツ太陽がみんなをギュッと集めてきた。
それをポータルという形でスクリプトをいっぱい書けば、最新エピソードや人気順とかを一覧で見れて便利じゃんっというノリだったのですが、ピークの時で1日200近いエピソードが上がってたと思います。
結構な人気が出て、飽和してもシステムがちゃんとスケールするように一生懸命頑張って調整したりしてたのですが、ドメインが失効して消えたんですね(笑)

──そういうシンプルなミスで無くしてしまうのも、黎明期らしい現象ですね(笑)
環境が整った現在でも『デジオ宇宙』のような生態系をDAO的な形で運営することには可能性がありそうですよね。マネタイズの方法や決済の方法も、当時より圧倒的に整備されてますし。

直純今でも可能性はあると思いますよ。
現在、『Netflix』がやってるような月額課金でCMも挟むみたいなことが馴染むかどうかは分からないですけど、それは考えてました。
当時のコンピューターのパワーでも、音声を貼って、CMだったり、ジングルだったり、次回予告だったりを挟むのは全然可能だったので。

──例えば、広告すらもスタンプのようにクリエイターが自由に貼ることできたら、その役割も変わって行きますよね。
『KINCHO』の音声CMのような歴代の名作もたくさん存在しますし、サウンドステッカーにしても『伯方の塩』のような作品がたくさんあるので、それらを管理されたポータルの中で、LINEスタンプのような形で使えるようにようにできれば、様々なアイデアで活用される気がします。

直純ありえると思います。
ただ、グローバルにすると悪用する人はたくさんいるので、小さいサイズに制限することに意味がありますね。

──スモールサイズのポータルという発想は、決してネガティブな意味ではなく、参加者全員が台帳管理されているクローズドな生態系の中で行われる広告活動が、もし実現するのならば、企業とカスタマーの関係性にも新しい関係性が生まれますよね。
ここで、今日のメインテーマとして話したかったポイントに近づいてきたのですが、SNSによるWeb2.0を経て、Web3を夢想し始めている現代において、”ポッドキャスト”が、かつて”インターネット”に期待されていたWeb1.0的な遊び場として機能しているのではないかという印象を持っています。
かなり乱暴な区切り方にはなりますが、このキーワードは直純さんにとってピンと来ますか?

直純部分的にはその通りだと思いますね。
プロデュースする側がちゃんとコントロールできれば、Web1.0的な可能性は見える気がします。
声だけで勝負できるところはとてもWeb1.0的だし、どんなに飾ろうと思ってもそんなに飾れないですからね。

──ポッドキャストは欲望を喚起しづらいので、お金を稼ぎたいとか、承認欲求を満たす目的が強い人からは魅力的に見えないという点でもフィルタリングが効いてますよね。

直純村が違うから先鋭化しないんですよね。
誰もが平等なところに立って聴いてもらえるという点でも、インターネットの初期に理想的な煽りとして言われていた、”誰もが発信者になれる”というワードがそのまま使えるメディアですよね。間違いなく。

──直純さんは、2018年のForbesJAPANでのインタビューの際に、プラットフォームのプログラマとして”公共性”に関して意識的であることを名言されていましたが、現在のポッドキャストにおいて、人為的に公共性を反映させることは可能だと思いますか?

直純主要なプラットフォームでさえも落としどころが見つかってないという意味で、今は特殊な状況にあると思っています。
『デジオ宇宙』は、残念ながら2〜3年でなくなってしまったのですが、わりとベストな公共の場所は作れたのではないかと思いますが、これが30年続いた時に、その公共の場所はどうなるべきなのかみたいなものをもっと学習しないといけなかったはずです。だからそこがすごく惜しくて。
例えば、ブログのプラットフォームが閉鎖する際に、全てのテキストデータを引き出して他のブログサービスに置き換えるのも結構大変で、そのたびにボランティアのプログラマが読み込めるようにするためのフィルターを書いて、ネ申みたいな感じになりましたよね。それも含めて公共なのかもしれません。

※テキストによるダイジェストはここまでとなります。

竹中直純さんをお迎えしてのエピソードは「前編・後編」と2回に分けて、雑談のポッドキャスト番組「from 雑談」にて公開中です。
※番組は下記リンクよりアクセスください。

PODCAST『from 雑談』

出演:竹中直純/Naozumi Takenaka

「雑談」が制作・配信するオリジナルポッドキャスト「from 雑談」。ポッドキャストスタジオ兼クラフトビアバー店舗にて、日々生まれる雑談を不定期に切り取り、声からはじまる刺激的な創造と出会いの現場から、本物の声だけをお届けします。

今回のエピソードを聴く ↗︎

Profile

『竹中直純(プログラマ/起業家)』

1968年福井県敦賀市生まれ。90年代前半のインターネット黎明期からさまざまなサービスを企画、設計、開発するプログラマ、起業家。現在は技術開発を本業とするディジティ・ミニミ社をベースに、OTOTOY、BCCKS、未来検索ブラジル社でいずれもプラットフォームサービスを運営しつつ各種開発も手掛ける。砂原良徳、國崎晋と共に音楽を楽しむ環境を見直すPodcast番組"Operation Sound Recovery"のホストも務める。

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